2月早春!?の奈良、暖冬のオオクワ採集
 
2月早春!?の奈良、暖冬のオオクワ採集
ー Under the Star ー
2007年 2月
     
2月早春!?の奈良、暖冬のオオクワ採集
 
世の中にはモノゴトに圧倒的に秀でた能力を持った人物が様々な分野で活躍している。
例えばプロスポーツ選手であったり、芸術家であったり、学者であったり・・・そういった人たちは幼少の頃よりその生まれ持った才能を見い出し、或いは見い出され、その上に弛まない努力を重ねた結果として辿り着いたアスリートである。また、その人たちに共通して言える事は、そのモノゴトに対して非常に深い愛情を持っている、つまりそのモノゴトが物凄く大好きだという事である。「好きこそモノの上手なれ」・・・しかしいくら好きで好きで努力して、またある程度、いやかなりの才能を生まれ持っていたとしてもどうしても辿り着く事ができない、さらに上の最境地がある、それがカリスマと呼ばれるいわゆる神がかり的な仕業を行う事ができる、「選ばれし者」ではないだろうか。
 
オオクワガタ樹液採集仕事人N氏。本誌でも毎号お馴染みの彼は、オオクワガタとオオクワガタ樹液採集をこの上なく愛する一人である事は疑いようのない事実である。私から見て冗談やお世辞でもなく、間違いなく3度のメシよりもオオクワガタが好きに違いないと思われる彼は、毎年各地で年間30頭以上ものワイルドオオクワガタを樹液採集している。しかもコンスタントに必ず70mmオーバーの大型♂個体も捕っている、昨年は阿古谷にて71mm、そして佐賀県にても73mmをキャッチしている。幾度となく彼の採集に同行している私だが、何度行っても彼の採集スタイルにはその都度驚かされる。信じ難い事かも知れないが木の下に立った時、そこにオオクワガタが居るか否か、N氏には瞬時に見えるらしい。しかし近年そんな彼自信もが自分自信の行動に驚いてしまう事があると言うのだ。彼の毎年の圧倒的な採集実績は、長年積み重ねられたノウハウと技術や勘、そして人並み外れた身体能力によるところなのだが、それだけでは図り知れない、なんと言い表わせば良いのだろうか、まさに神の掲示としか言いようがない捕り方が度々あるのだ。「何故この木に登ったのだろう・・・何故この場所を探ったのだろう・・・」木の上で大きな♂個体を手にしながら自分自信の行動に説明がつかなかない事が昨今あるとN氏は言う。
 
2月の暖かいある日、その日もそんなN氏の神がかり的な採集を実感する一日となった。
この日向かったのは奈良県の某所、奈良でのオオクワ採集は私は初めてである。奈良と言えばその県名と本題にもなっている代表的な昆虫名を社名に冠した有名な昆虫ショップがあるが、オオクワガタの産地としては近年あまり聞く事はない。じつはこの数日前、N氏は所用のために知人と共に奈良を訪れたのだが、その帰り道、助手席に乗っていた彼は何気に動く車の窓から外の風景を眺めていた。奈良は盆地で中心部は都市化もしており、また歴史ある遺跡なども数多く存在しているいにしえの古都であるが、周りの山地は意外と豊かな自然が多く残っている。そんな山の景色の中、当然クワガタなどが居そうな場所があっても不思議ではない、時折現われる雑木林に色々な思いを巡らせていた。そんな景観の中にふと目を奪われる光景が現われた、棚田が広がりそれを取り囲む雑木林、そう能勢のようなシュチエーションである「ここは・・・!」N氏の直感がピンと働いたという、そしてその斜面の奥にはチラリと微かに台場クヌギの存在が確認できたらしい、「ここには必ず居る!!」と確信した彼は運転している知人にその場所の位置確認をし、走る車の助手席からそのロケーションを目に焼きつけてきたのだった。 2月早春!?の奈良、暖冬のオオクワ採集-イメージ2
 
朝9時に岐阜を出発し。私たちを乗せたハイブリッドRV車は快適に、時にパワフルに、そしてエコロジカルに、順調に目的地へと向かった。途中で食事や休憩などをしながら現地付近に到着したのは12時半頃になっていた。同行者はN氏以下、最近益々体力不足でこの先いつまで採集に同行できるか?甚だ怪しい本誌記者のW氏と、ダンディでちょいワルなモデルS氏、そして中部圏を拠点に躍進するIT不動産会社社長のU氏と私である。
さて、N氏が見つけたその場所は大きな幹線道路の近くにあり、彼はその幹線道路を通行中に発見した。しかし幹線道路からは直接その場所には近付けないため、そこへ辿り着くためのルートを探さなければならない。数日前の記憶を辿りながら幹線道路から離れ山道を巡るのだが、裏手から見る風景は随分と雰囲気も違い、なかなかこの辺りといった確証が得られる場所が見つからない。いざ入ってみると行き止まりだったり、或いは道幅が細くなり過ぎてそれ以上先に進めなかったり、細い道が幾本も絡み合った複雑な地形は私たちの行く手をいっそう困難にした。近くまで来ているはずなのだが・・・、思いきって逆の斜面から行ってみようと話がまとまり山を幾つも迂回しながら反対斜面方向に廻った。「この辺り・・・だと思うんだけどね〜」N氏の記憶のみが頼りである、しばらく行くと目的の場所方向に続そうな感じの細い道が、奥へと伸びているのが目に入った、「どうしようか?」しばらく協議したが、皆気持ちが逸っているため、多少歩く距離が長くても何とか行けるのではないか、とにかく行ってみようということになり、車を止めると早速身支度を整え足早に歩きだした。
     
記録的な暖冬の今年、各地でさまざまな影響を与えているが、昆虫にも少なからず影響が出ているとも耳にする。昨年はじつに遅くまで蚊が飛来して来ていたし、越冬しないゴキブリが冬でも部屋に現われたりしているようだ。オオクワガタにとっても某かの影響があるのではないだろうか? 事実として今年は1月そして2月と真冬の越冬採集での採集数が例年以上に多い。もちろんそれは近年私たちが冬にも精力的にオオクワガタの生息地を訪れ、越冬状態のオオクワガタの居場所を解明し、そしてその捕り方を確立してきたからでもあろう、その結果、冬のオオクワガタは完全に樹のウロや洞などの奥深くに潜り込んでしまい、春まで全く出てこないというばかりではなく、意外と浅い箇所に留まっていること多いという事実が解ってきた。そして気温の高い時には冬でも活動しているのではないだろうかと思われる事態に幾度か遭遇している、だとすればこの冬はより活動しやすい状況であったのではないだろうか、そのため私たちにも発見、採集しやすい状態にあったのではないだろうかと考えられる。しかし、だからといって喜んではいられないのが現代社会である。この暖冬にも現われているように、私たち現代人の生活活動によって地球環境に大きな影響を与えて続けてきたために、昨今の温暖化に代表される、さまざまな環境変化が現われてきているのである。私たちの想像を遥かに超える速さでそれらは進んできているようにさえ思えてならない。ひとり一人がそういった認識をしっかりとわきまえ、環境を保全する、破壊を慎む、汚染を控えるといった意識を強く持って、例えば今回のようにハイブリッド車を利用するなどの具体的な行動が必要なのではないだろうか。そして人と昆虫との関わりあい方にも未来を見据えた新しい取り組みを考えていかなければならないと思う。
 
暖冬の影響はその日の私たちにも現われていた。車を止めた場所から山道に入るまでの道のりが結構あり、田畑の脇を通り抜け小川を飛び越し、山の斜面に着く頃には気温の高さも手伝ってすでに汗ばむ程になっていた。林を抜け、時にヤブコキしながら斜面を登り奥へと分け入っていく、しかし目的の場所に近付いて行っているという実感がなかなか得られない。かなり入って行ってみたのだが道らしい道はついておらず、これ以上進んでもかえってその場所からは逸れていってしまいそうな気配である。しばらく辺りを捜索したが「ちょっとまだまだ遠いかも知れませんねぇ・・・」「引き返してほかの道探しましょうか?」、真冬だというのにすっかっり汗だくになり若干息もあがりそうな状態の中、引き返すことにN氏以外のメンバーはホッと胸をなで下ろした。転げるように山を下りふと振り返ると記者W氏の姿が見えない、「Wさんが見えないよ〜」N氏に言うと「あ〜、これじゃもうすぐ採集に来られなくなるねぇ・・・」とN氏、しかし実際N氏のハイペースについて行くことは健常者であっても容易なことではないのだが・・・、まぁ元オリムピック代表候補のアスリートであるN氏と一般の私たちとでは、持ち合わせた身体能力がそもそも違うわけで、N氏にとっては散歩にもならない程度の行程だったと思うが、それに合わせて行動する私たちには己の限界に挑戦するようなことなのだ。ようやく車のところまで戻ると程良い運動となってとても気持ちが良かった。この時期の山歩きは本当に清々しい、しかしそんなことに浸ってはいられない、振り出しに戻ってしまったのである。そこでもう一度、幹線道路を通って場所とロケーションの確認をすることにした。途中自販機のドリンクで喉を潤し、幹線道路を走る、この辺りは良い雰囲気の雑木林が道路を走っていても時折確認できる、しばらく行くと「ん?・・・あれは・・・」遠くの山間の田畑の脇、斜面の裾に林立しているものは・・・、ここ数年、N氏の採集に各地に同行してきた私には、かなり遠目に見ても台場クヌギが認識できるようになっていた。「あそこなら居そうだ、いや居るに違いない!」しっかりと場所の再確認をした私たちは幹線道理を離れ、入念に廻りの道をチェックし、「ここだろう!」「ここからなら行けるのでは!」という細い坂道に満を辞して車を進めた。曲がりくねった峠道を暫く進むと次第に辺りが開けてきた、と、「あそこだ!」まだ遠目ではあるが、ついにあの場所が姿を現した。車内もにわかに活気づいている、そこからさらに山道を進み、一旦はその場所は私たちの視界から消えてしまったが、程なくして再度現われた時には、もはや歩いてでも行ける距離まで迫ってきていた。しかしまだまだ車を進められ、意外にも近くまで行けることができた。田畑があるため軽トラ程度なら通れる道がかなり奥まで続いていたのだ、農作業に訪れる地元の方の邪魔にならないように車を止めると、そこから台場クヌギの場所までは僅か数百メートルの距離しかなかった。時刻は2時過ぎ、最も暖かい時間帯である、良いタイミングで到着した私たちは早速身支度を整えた。
   
2月早春!?の奈良、暖冬のオオクワ採集-イメージ3 「あそこにも台場があるねぇ・・・」N氏が指差す方に目をやると、200m程も離れているだろうか、山の斜面の裾に小振りだが台場クヌギが確認できる。やはりこの一帯は里山の生活環境が未だに残っている土地柄なのだろう、だとすればかなり広範囲に台場クヌギが残っている可能性も高い、まずはあの場所からということで、そこを目指して歩きだした。山際の道から田と田の間を抜けて進む、徐々に例の台場クヌギが大きく見えてくる、手前の杉林の斜面を迂回するともうすぐそ
 
こだ、期待に胸を膨らませながら林を抜けると、ひと際陽当たりの良い斜面に台場クヌギが並んで聳えていた。ついに辿り着いた。思ったよりも大きくかなり立派な台場クヌギである、能勢のそれと比べてもなんら遜色ない程である。ようやく辿り着いた歓喜に浸りながら、皆一斉にウロなどを調べ始めた、私はその風景をカメラに納めることに執心していた。N氏はというと落ち着いた面持ちで一通り台場を見て回った後、斜面の下の方にある若干部分枯れを起こしている太い根台場をおもむろに調べ始めたようだ。「う〜ん・・・絵になるなぁ・・・」私はひとり呟きながら写真を撮り続けながら皆の方に徐々に近づいて行った。さほど時間は経ってはいなかったと思うが、見ると記者W氏がN氏とその探っていた台場を写真に撮っている、何げに横目に見ながら通り過ぎると、近くには木に登ってせっせと探っているS氏が居た、すぐ近くではU氏も懸命に探っている。「どうですか?」と訪ねると、「♀のようですねぇ。」とS氏・・・「はぁ???」私は一瞬意味が理解できなかったが、「えっ、捕れたんですか!!」「ええ、そこですよ。」「!」さっきの記者W氏の撮影はなんと捕れたオオクワガタを撮っていたのだった。
 
「え〜!Nさん捕れたの!・・・もう?速っや〜」あっと言う間の出来事であった。早速私も近くに降りて行き、「おめでとう!」とN氏と握手を交わす、抜群に日当たりの良い根元付近にあいたウロにかき出し棒が刺し込まれており、そこから♀のオオクワが顔をひょっこり覗かせていた。「お〜、凄い、結構デカいねぇ」、私は夢中でシャッターを切った。一通り撮影を済ませた後、いよいよウロから出してみると、やはり結構大きい、4Ommは十分超えているであろう。「こんな処にも、こんな良いサイズが居るんだ。」台場クヌギで育ったオオクワガタは、相対的に見て、大きくてがっちりとした個体が多いように私には感じられる。
それにしても・・・やはり居た、本当に居たのだ。偶然たった一度通りかかり、一瞬目にした光景ですかさずオオクワガタの存在を感じ取り、引き寄せられるようにそこに、そのウロに辿り着いてしまう。まるで導かれているかのように・・・
2月早春!?の奈良、暖冬のオオクワ採集-イメージ4
 
N氏曰く、その♀を捕った台場クヌギのさらに下の方に深いウロが空いており、その奥の方に♂が居るとのことだ。確認した訳ではないが間違いないらしい、きっと彼の目には見えるのだろう、彼にはそういった常人にはあり得ない、卓越した能力が備わっているのだと思う、いわゆるそういう星の下(Under the Star)に彼は生まれたのだ。
 
その後私たちは、その周辺を歩き回って他に良い樹がないか探してみたが、それほどの樹は見つからなかった。その後、車に乗って近辺を広く捜索してもみたが、この日は他にこれといった場所を見つけることはできなかった。しかし、この辺りは里山と雑木林が織り成すロケーションが、広範囲に広がっている。まだ近くにオオクワガタの棲息場所がある可能性は高いのではないかと思われる、また例のウロに居るであろう♂を確認するため、本格的な春の訪れと共に、またこの場所にやってくることを誓いながら帰路についたのであった。
 
 完